公益社団法人岩手県猟友会

よもやま話

おいしい復讐

 久慈地方猟友会  小林あずみ

 「狩りガール」という言葉が世間一般で認知されてきた昨今でも、やはりまだまだ女性ハンターは珍しいらしく、趣味で狩猟をやっていると伝えると、大抵の場合驚きとともに、きっかけを尋ねられます。私はだいたい「復讐です(笑)」と答えています。

 そもそも、私が狩猟を始めたきっかけは5年前、宮城県石巻市で働いていた時でした。林業関係の転勤が多い仕事に就いており、東北各地あちこちの山に入ってきましたが、石巻市牡鹿半島の森に入ったとき、森の様子に違和感を覚えました。

 まず、明るい広葉樹の林なのに、地面に草が生えていないこと。そして、地面から2mくらいの高さまで、枝葉がありません。ニホンジカが口の届く範囲を食べつくす”ディアライン”が一目でわかるほど形成されていました。

 牡鹿半島は昔からニホンジカの生息地として知られている地域でしたが、近年では岩手県五葉山地域と並ぶ東北シカ被害の激震地になっています。シカの好きな植物は食べ尽くされ、残っているのは毒、棘、強い匂いの植物ばかり。結果、毒草として名高いバイケイソウやマムシグサ類までバリバリむしゃむしゃ、お腹を壊さないのかと心配になります。そのほかにも、林床植生が乏しいため土壌支持能力が低下、雨で表土が流され、固い地盤や木の根が露出していたり、土砂崩れも頻発、おまけに雨が降るとヒルだらけという異様なありさま。

 一方仕事では、シカに植樹したスギやマツも食べられてしまうため、植栽地の周りを防鹿柵にて囲い守っていました。ただ、柵は一箇所でも穴が開いてしまうと、効果が激減してしまうため、定期的に数キロに及ぶ柵の見回りを行わなくてはいけません。ところが、赴任半年ほどたったある日、大雨により土砂崩れが発生し、柵がすぐには修繕不可能なくらい崩壊してしまいました。柵内はシカの楽園となり、スギは2週間ほどで紅葉したように赤く色づき、半年ほど経つと茶色く変わり果てました。柵の中を笛のような警戒音を響かせ、ステップを踏みながら集団で去っていく白いお尻たち。汗水たらし守ってきた木を食べられた私は、怒りのあまり「駆逐してやる…!!」とはいいませんでしたが、このままではダメだと考えさせられた出来事でした。

 その半年後、罠免許を取得し、一年後に銃免許も取得しました。結局石巻猟友会には2年程在籍し、有害駆除の勢子として参加させてもらったり、狩猟の基本を教えてもらい、大変お世話になりました。雨や猛暑の中、ヒルと闘いながら有害駆除を続ける猟友会員の皆様には本当に頭が下がります。それと同時に「シカは元々被食されることを想定し旺盛な繁殖力を持つ草食動物なのだから、誰かがおいしく食べなくては!!」という口実の下、狩猟同好会を立ち上げ、仲間たちと共に、シカを捕り→おいしく食べ、地元の人たちにシカ問題に目を向けてもらうためシカ料理をふるまうイベントを立ち上げ→また美味しく食べ、大変楽しく過ごさせてもらいました。

 そして現在は、久慈地方猟友会にお世話になっています。最近はお肉の調理だけではなく、皮の加工にも挑戦中です。復讐を続けながら、たのしく美味しく狩猟生活を堪能しています。