盛岡猟友会 寺長根 実
長い間狩猟をやっていると色々な経験をした方がいると思います。今回私が経験したことを話したいと思います。
三陸方面にシカの巻狩りに行ったときのことです。まだライフルが持てない頃で、散弾銃に九粒、スラグをという装備で、3人が勢子で私が一番上の勢子役を受け持ちです。三陸吉浜は12月といえ暖かく陽の射す日で少し歩いただけでも汗が出て大変な日で立ち役は眠気が出る陽気な日である。汗を拭きながら声を出しながら進んでいきました。
ふと見ると切り株の根元の窪みに、無様な格好でシカが寝ていました。距離は20m前後、今まで声を出してきたのに動きもしない。前足は左右に開き、白い腹を出してよりかかるように寝ているのです。
天気がいいのでダニでも取ろうとしていたのだろうか。よく見たつもりだが、死骸にしか見えないので仲間に、無線でシカの死骸があることを知らせて2、30m進んだ頃にふと気になり振り返ってみたら、さっき見たシカの死骸が立って後ろへ走っていったのです。
びっくりしたのは勿論です、別のシカが走ったかと思ったくらいです。あわてて銃を向けたのですが間に合わず見送りです。しっかり見ていれば捕獲できたはずなのに自分の思い込みで失敗です。仲間にはしばらく内緒にしていました。
永年勢子役をしていると、山も覚え体力もつき山を歩く要領も覚えてくる。大船渡市大森地区のシカの巻狩りのときの出来事である。
この山は上の方より下の方がシカのいる確率が高そうなのと、他の勢子役が体力消耗のため上の方が下より距離的にも短いので私が下を受け持ちセット完了。
何時シカが走り出してもおかしくないにもかかわらず出ない、巻狩りの半分くらいの進んだ頃、石が点在するところに差し掛かったのである。
その石を見た途端、シカが寝ていると思い銃を向けたくらいで、確認したら苔の生えた岩で距離20m位よくぞこんなに似ている岩があるものだと思った。
シカを狩りたいと思うあまり、なんでもシカに見えるのかなと危険な状況にある自分を反省しました。
声を出し少し進んでいくとシカが背を上にして寝ているような大きさ1m位の似たような石が10ケ位点在、この中にまさかシカが紛れ込んでは居ないだろうなと、思いもしたが声も出しているのだからまさか、と思い30m進んだとき何気なく振り向くと、岩が二つ立ち上がり走り出したのです。
びっくりしている間にシカは視界から消えてしまいました。走り去った2頭はオスシカで、石に見えた時に角はどのようにしていたのだろうかと不思議です。
のちに思い出したのですが、岩のところに目のようなものをなんとなく確認していた様な気がしたのに、何を考えていたのか、うまく化けられました。
人間て目で見ていても、脳ではいろんな違ったことを考えているんだと。人から話をされても、返事をするが記憶をせずに行動に移らない。こんなことが年を重ねるごとに多くなってくるのである。
仲間にそれ以降、巻狩り時にも獲物に似たものがあったら、きちんと確認することを声掛けしている。自分にも…。