公益社団法人岩手県猟友会

よもやま話

迷子のバンビちゃん どうするバンビちゃん・・はいポーズ

齊藤 俊

「大自然はグルメの宝庫だ。でもナイフとホークの使い方を知らんと喰えんぜ」

 この言葉が大好きだ。ナイフとホークとは何ぞや・・それは知識と技術である。
 グルメを求めて2005年4月中旬よりコゴミに始まりコシアブラ、ワラビと山菜の種類が増していく。時にはナラタケ、タモギタケやハナビラタケと出会うことがある。
 しかし今シーズンはとんでもない物に遭遇した。それは6月4日午後2時半頃のことであった。猟友の工藤慶昭氏と2人で盛岡市郊外の山林でワラビ採りをし ていたところ、ドイツトーヒの造林内で60cmほどの楕円形の茶色に丸い白点が付いたものが目に入った。その瞬間「ツチノコ?」かとも思ったが直ぐバンビだと分かった。何故かと言うとこの付近には3年前からブル1頭と雌5~6頭を目撃し、VTRに収めていたからである。

さて、このバンビちゃんは首を持ち上げ立ちあがった。普通は逃げるものだがなんとキョトンとして私 を見上げているのではないか。手を差し伸べると鼻を擦り付けてきた。鉄砲撃ち50年の私もこれには驚いた。熊と鹿も数え切れないほど見たが、自然の中のバ ンビは初めてだ。背高さは60cmほどで何と愛くるしいことこの上ない。
 私の脳裏には懐かしい映画のシーンが浮かび上がった。それは40年か前に観た洋画でグレゴリーペック主演のディズニー映画と記憶しているが、名画「子鹿物語」の1シーンで、母親を失ったバンビが坊やにだっこされた場面である。当時は天然色映画と言われてその鹿ノ子模様の素晴らしさに感激したものだったが、ここには正しく目の前に本物がいるではないか。ビデオカメラは車に置いていたので、これはVTRに撮る絶好のチャンスとばかりバンビをだっこしたら2回ほど鳴いたが暴れなかったので30mほど離れた4WDに戻った。工藤氏も何事かと車にきてびっくりした。

 さてVTRが始まった。林道に放したが逃げもせずビデオのレンズに鼻を触れる始末である。頭と喉をなでてやりながら「早くアッパ(母親)に行け」促したが林中に入る気配はなく、工藤氏が先導して歩き始めたら何と工藤氏の後ろについて歩く始末。私はビデオで撮りながら「オッパイは持ってないぞ。ワラビしかないぞ」などと言って、さらに「ハイポーズ」と言ったら人の言葉が分かったのか、本当にポーズをとったのには「驚き桃の木サンショの木」であった(当地方では驚きの表現を「」で言う人はユーモアのある人)

 その後バンビを山中へ誘導し尻を押したりして追い払うような格好で10分ほどVTRに納めた。「いやー全くまいったな・・」と2人の大笑いは帰宅まで続いたのであった。
 このVTRは当地のTV局に持ち込んだ。そして2分ほど放映された。その後東京のTV局から取材があり、6月8日朝5分ほどと日中数回放映された。
 さて、岩手県内の鹿の生息地はどうなってしまったか?盛岡市だけでも交通事故死の2例がある。ここ数年で友人や知人からの目撃情報は十数 件もあった。五葉山北限の定説は20数年前から変わっている。内陸部は鹿にとって食料が無尽蔵に在る。ハンターは減る一方だ。行政はどう考えているのか? 「さてどうしたらいいんだろうか、皆で考えよう」