胆沢猟友会 鹿島 佳子
「鉄砲やってみないか?」
所属する団体の会長から言われたこの言葉が、私が銃を所持し、狩猟を始めたきっかけだ。
もともとクレー射撃をやってみたかったこともあり、二つ返事でOKしたものの、その道のりは楽ではなかった。仕事の休みを頂いては職場から40キロ離れ た警察へ何度も足を運んだ。さらに取得までの期間中に人事異動や婚姻による引っ越しと改姓。近所の人たちの噂話には、私ではなく家族に嫌な思いをさせてし まった。途中、幾度となく諦めかけたが、乗りかけた船である。時間は要したが、何とか銃の所持許可を取得。先輩方からの助言もあり、同年あわせて狩猟免許 も取得した。
そんな苦労もあってか、朝一番に自然に囲まれた射撃場で行うスキートは格別である。まだまだ未熟で、命中率は低いが、射撃場でお会いする方々との会話も楽しい。
猟期の雪山は空気が澄んでおり、頂上からの眺めや、自分の腕や肩に降った雪の結晶に目を奪われる。雪に残った足跡からそこに生息する動物を予想するのも楽しみの一つだ。
しかし狩猟は楽しいことよりも、考えさせられることの方が多い。先輩方と一緒に山に行って驚いたのは、中山間地域の鳥獣による農業被害である。平地に比 べ面積も小さく傾斜が大きい田畑に、隙間なく張り巡らされた網と柵を見て、初めてその被害の深刻さを知った。猟友会の会員減少、農林水産業従事者の減少と、それに反比例するように増加している鳥獣や耕作放棄地。被害の拡大には様々な要因があるが、一般人がそれらを「知らない、関心がない」という事も要因 の一つではないだろうか。
狩猟や有害駆除というのは、農家や狩猟者にしてみれば「駆除」であるが、何も知らない人にしてみれば「殺生」である。その背景にある農業被害等の事情を知らなければ、一般人の意識は、我々の思いといつまでも平行線であるし、大衆の理解を得られない物事に対し、大きな対策は講じられない。農業王国岩手にとって鳥獣による被害は深刻である。特にもリンゴやワインの原料となるブドウの産地において、ハクビシンの北上は脅威である。組織はもちろん地域全体で取り組む体制が、今後の鳥獣対策に求められるのではないだろうか。
また、猟友会がマスコミに報道されるのは熊の被害が出た、他県で銃による事故が発生したなど、「良くないこと」に限られているように思われる。しかし実際にそれだけなのだろうか。
例えば、新幹線は熊と衝突した際、安全確認のため停車を余儀なくされ、時間帯によっては何万人に影響がでる。その後、新幹線が安全に運転を再開出来るのは、近隣の猟友会員が出向いて熊の生存や安全を確認しているからなのである。停車中は車掌であっても熊に襲われる危険があるため、車外に出ることが出来な い。実は猟友会が新幹線の縁の下の力持ちであったりするのだ。農林水産業の被害拡大抑制にも貢献していることは間違いない。「良いこと」を発信し、人々の理解と協力を得ることも、現代の我々に必要なことではないだろうか。
今年も猟期が近づいてきた。仲間と共に社会的責務及び関係法令を順守し、山の恵みに感謝しながら狩猟を行っていきたい。また、今後も岩手県猟友会会員各位の御支援、御協力を切にお願いするとともに、会の発展と農林水産業のために微力ながら貢献したい